新企業の研究者を目指す皆さんへを読んで
この4月から社会人の研究開発部に入る自分がこの先どんな研究開発を行っていければいいのかよくわからず、 参考にできる本はないかなーと思って探していたら以下の本と出会ったのでその感想とまとめです。 社会人になる方はぜひ読んだらいいのかなーとか思ったのですが、普通に学生、特に工学の研究をしている人は読むのおすすめです。(特に弊研の方!) 学生時代、少なくとも僕はさんざん”研究ってなに”と悩んで生きてきました。 修士を終えて、先日の記事 にも書いたように、少しはそのことがわかってきたのかなと思いつつ、”研究とは”に対する回答を言葉にするとすごく難しいと思います。 この本はそういう人へ、”研究ってなんだ”、”研究ってどうやるんだ”、の問いに言葉で答えられるようになる手助けをしてくれる本かもしれません。
参考にした本
「新企業の研究者を目指す皆さんへを読んで」 著:丸山宏先生 出版:近代科学社
参考にしたいと思ったところ
ここから先は、この本を読んで自分の経験を活かして参考にしたいなーと思ったところのまとめです。 (一部ネタバレあります。のでここから先は自己責任で読んでください。)
良い問題を選ぶ
この話はたぶんいちばん大事だと思います。
本の中で言われているのは、解くべき問題は
”世の中にインパクトがあり、かつ、解明されていない問題”
です。ただ条件があって、
解けない問題を解こうとしない
ことが大切だそうです。
個人的には、これ学生の研究でありがちなんだと思います。 他の研究室でも大概そうだと思いますが、弊研では各学生が研究のアイディアを考えます。
すると、研究のアイディア自体は面白いのですが、
- それってそもそも解けんの?(絵空事では。。。?)
という質問が飛び交います。そして、当人は、問題を限定して解きやすくしようとします。 するといつの間にか
- それって解いて意味ある問題なの?
- 従来研究を上手くすり抜けているだけでは?、コントリビューションはどこ?
となって問題を簡単にしすぎてしまい、インパクトがどうしても小さくなってしまいます。
なので、研究を行っているときは常に、
”世の中にインパクトがあり、かつ、解明されていない問題”
解けない問題を解こうとしない
の2つを確認しながら進めるべきなのではないかと思いました。
現場に出向く
本の中でも触れられてましたが、 本当の問題、インパクトのある問題を解くためには、現場に出向くことが重要なんじゃないかと個人的には思います。
各研究分野に置かれている仮定が、実環境や実システムを稼働しているところでは当たり前じゃないケースが非常に多い気がしています。 そういうことに気づくためには、現場の人と話したり、出向いたり、実環境を見て想像したりすることが重要なんじゃないかと。
その作業って一見無駄に見える?かもしれませんが、手法の実応用を考えた時、実は最も求められることなのかもしれません。
お客様がいる場合は、そういったことを引き出せるように(これが本文の中でいう、要求開発にも近いのかもしれない) 議論を進められればと思いました。
問題を分割する
MECEという言葉にもあるように、 あるとても難しい問題を解くときは、その問題を丁寧に、漏れなく分割する必要があります。 本の中でも言われていましたが、
その分割した問題を解いたら、あなたの課題は解けましたか?
を繰り返して問題を漏れなく分割しきることは非常に重要だと思います。
分割したときに、分割したその小さな問題を解くだけで、大きなインパクトがあるなら、それをそのまま研究にできますし、 ある大きな問題に対して、自分のコントリビューションがどこなのかを明確化(この問題は従来研究で解けるけど、これは従来研究では解けないのように) することができると思います。
最初にストーリーを作る
研究はストーリーを作ることだとこの3年間で学びました。
どんなにインパクトのある問題を立てても、 どんなにエレガントなアプローチ(ハイパーパラメータのチューニングがいらないなど)でも、
きちんとストーリー(ロジックが通っていなければ)ができていなければ、 人に説明したときに伝わらないという意味でそれはあまり良くない研究なのかもしれません。
そういう意味で、このストーリーを作る能力は非常に重要だと思っています。
ただ、一点気をつけたいのは、こちらの能力だけを伸ばしてしまうと、 どんな研究をしていても従来研究をすり抜けるようにストーリーを作れてしまい、 結果として、インパクトの小さな問題を解いてしまうことになると、本末転倒で、非常にもったいないと思います。
常に良い問題を解いているのかは考える必要がありそうですね。
検証項目を出し切る
ストーリーを作る際に、どんなことを検証するのかということをすべて書き出した方が良いというのは間違いなさそうです。
- 従来手法では、こんなことが起きてしまうはず。
- 提案手法を使えば、こんなことができるはず。
のように、検証項目を書いておけば、結果と照らし合わせやすくなりますね!
特にここで想定される結果を書いておくことが重要な気がします。
評価指標
上の検証項目についても関わる話ですが、どんな指標を使って評価するのかは事前に決めておけると良さそうです。
僕は学生時代いつも、先に実験(ロボットの研究だったので)してなんとなく想定された動きが得られたデータを検証して、実は指標でみると上手く言っていないことに気づいて、後から何回もやり直すってことを繰り返してました。 なんとなく上手くいった。。。、見た感じ良い。。。というのは無意味なので、指標は事前にじっくりと議論しておくと良さそうですね。
見せ方を考える
これは研究のインパクトとも繋がると思います。 確かに、良い問題で、良い指標で、良いストーリーであれば、研究として評価されると思いますが、 実際、実問題を考えると、どうしても自分の研究分野に精通していない方が研究を見る場合があると思います。
研究のインパクトを適切に伝えるためにもどのように、研究を見せるか?魅せるか?を考えると良さそうです。 (個人的には、ここは研究のまとめる段階でやっても良いかもしれませんが。)
どの程度の改善を見込めるかを考える
これは企業向け?の話かもしれませんが、提案手法が上手く行けば、〜の程度の改善が見込めるとか、〜の動きを実現できるとかを できるだけ具体的に述べておけると、より研究のイメージが湧きそうです。
結果をまとめる
本で言われていたように、やったことは何かの形でアウトプットしなければ、自分の中の蓄積として終わってしまいます。 例えば、論文、例えば、ブログ?などなど、今の時代はとにかくアウトプットしやすく、それをSNS等で多くの方に見ていただける環境が整っています。
なので、ガンガンアウトプットできるようにしたいわけですが 学生時代は、国際学会とか論文という形で、アウトプットしないといけないんだと思っていました。 なので、インパクトが小さくなったとしても、結果として良いものが得られるように研究方針を変更したり、手法が多少エレガントでなくなっても良いから指標として結果が良くなるように、試行錯誤的に決定するパラメータを増やしてみたり。。。学生だと最後は上手くいった(=想定される結果と同じ結果が得られた、手法の良さを説明できた)ものがないと、修士論文がかけないので仕方がない部分もあるかもしれませんが笑
でも、本を読んで、上手くいかなかった(=想定される結果と違った結果が得られた)結果も結果なので、それをどんな形でもいいからきちんとまとめることも大事なんだなーと感じました。
検証項目の浮気をしない
これは僕がすごくやりがちなので教訓のために書いています。
浮気しがちなんです。でもこれは指標を正確に作り込んでおらず、雰囲気で想定される結果と同じ結果が得られた、手法の良さを説明できたどうか判定し、できてなさそうであればすぐ次の検証項目に移動してしまう。これは本当に良くないと思います。
どんな検証項目のために、どういう実験をして、どんな結果が得られたか その結果に対して、どのようなフィードバックをし、議論をし、次にすべきことは何なのかををきっちりまとめていく癖をつけたいです。 この癖があれば、後でまた戻ってこれるというのは間違いないと思います。
最後に 〜ライフワークバランス〜
本を読んでいて驚いたのがこの話があることでした。
研究者を志す人にとって、家族や友人を犠牲にする必要があるのではないかと 僕は学生時代に良く思っていました。 (実際、遊びにいった回数や飲み会への参加の回数は大きく減りました笑)
でも、心が壊れてしまっては良い研究はできないし、 研究者である前に一人の人間でもあるので、友人や趣味の時間をしっかり作ろうと思いました。
そして、最近はどうも、いろんなことに縛られてしまっているような気がしています。 論文は何本出してないといけない!とか、このことを理解できていないといけない!とか。。。
純粋にやりたいと思ったことだけできるわけではないと思いますが、 ”やらなきゃいけない”と思うより ”やりたい、面白そうー”って思うほうが良さそうです。
甘い考えかもしれませんが、面白そうとか楽しそうって思えるような社会人研究者になれればと思いました。